ソーシャルワーク研究所

−シンポジウム情報−

【募集開始】
2025年7月12日より「第20回シンポジウム」の参加者募集を開始します。
●詳細は、「開催要項」(PDFファイル)をご覧ください
●お申し込みは、下の「参加申込みフォーム」から


(敬称略)

第20回ソーシャルワーク研究所シンポジウム

総合テーマ
「当事者中心の支援」をソーシャルワークの基本原則から再考する
−社会参加につなげるチェンジメーカーとしてのかかわりとは−


開催趣旨

 現在、市民生活の中では「個人の自由意志を尊重し、自発的活動には可能な限り他からの干渉をしない」ことを重視する「新自由主義」の考え方が定着し、社会福祉領域においても「自助、共助」を重視する時代状況と呼応して浸透してきた感がある。ソーシャルワークがクライエント(当事者)の「自立性(自律性)」「主体性」「自己決定」を尊重し、それを実践原則の根幹に据えて重視してきたことに鑑み、このような傾向は、違和感なく受け入れられたと説明することもできよう。しかし、社会福祉の実践現場には、慎重に対応しなければならない課題が横たわっていることを共有したい。
 「新自由主義」が重視する「他からの干渉」を排するとした「他」とは誰を、何を指しているのか。それは、日々の暮らしの中に「国家による管理や為政者の裁量から発せられる政策」を「排する」ことを意味する。このような視座は、必ずしも一律ではない多様な状況の中で暮らしを営む人びとの「安寧(wellーbeing)」の保証にいかに貢献できるのであろうか。社会福祉領域に参入する支援職は、「公助」の立場から「生存権」保障に向けた支援過程に積極的に参与する責務を見据え、時代の潮流に翻弄されず、ソーシャルワークの基本原則に則ってかかわる自らの立ち位置を見失うことがないよう努める必要が生じている。
 現在、わが国は、これまで経験することのなかった「超高齢・少子社会」「人口減少社会」と呼ばれる持続可能性を見通しにくい渦中にある。自治体財政の逼迫、経済の低成長に象徴される「現代社会の脆弱性」が顕在している社会状況下にあって、私達の日常は、「人」としての尊厳や安寧(well-being)が脅かされかねない事態に置かれている。したがって、ソーシャルワーカーとして取り組む支援では、命を紡ぐ場で危機的状況に置かれている「人」にとって、ワーカーとの出会いに「温かい血の流れ(=安心・安全)」を感じ取れることが求められる。
 ところが、社会福祉基礎改革以降、社会福祉領域の支援職が織りなす実践現場では、福祉事務所や児童相談所、高齢者関連施設、障がい児者関連施設、社会的養護や保育関連施設等での不適切な対応が事件化する事態も頻発している。ソーシャルワーカーは、利用者(当事者)の「命と人権」の擁護者として機能することが求められているにもかかわらず、いずれの事態も自らが「差別と選別と抑圧」の加担者に陥った状況が見てとれる。そこでは、権威(authority)が権力(power)に変容し、その使い分けも慎重にされないまま、利用者(当事者)に自身への服従を強いるようなかかわり(paternalism:一定の保護は与えるが、自由・権利に制限を加える)が存在する。利用者(当事者)が自ら意思して支援過程(helping process)に主体として参画できるようになる道筋(=主体形成)を閉ざすかのような現象は、ソーシャルワーク実践の「タコツボ化」ともいえよう。その結果、職場内の人間関係に「よどみ」現象を生み出し、支援を必要とする人びととの間に相互不信が蔓延する状況は、ソーシャルワーク実践の逆機能の連鎖が止まらない事態となって深刻化している。
 実践現場において「公助」の役割を基幹業務とする専門職としてのソーシャルワーカーは、多様な形態からなる分業と協働による成果を蓄積し、支援を必要とする人びとの「現実」に寄り添い続けるシステムや組織の再編に貢献してきた。ところが、社会福祉領域にも浸透しつつある「新自由主義」の広がりは、支援過程に顕在するパターナリズム(paternalism)に象徴される、ソーシャルワーク実践の本質的要素(=価値、知識、介入の総体として機能する)や基本原則と離反するような状況の再現(=支援過程に非対称性の感覚が払拭できないままになりがちな問題の見落とし)につながりかねない危惧を覚える。社会福祉の専門職と非専門職のボーダレス化の時代に直面しているからこそ、ソーシャルワーカーは、当事者の「語り」や「現実」に寄り添い、「ホリスティック(holistic)」な視点を見失うことなく、支援の起点を「利用者(当事者)の暮らし」から構築する必要について、「困った人」をあぶり出すのではなく、「困っている人」の状態像を詳らかにすることを「切り口(viewpoint)」にすべきことを共有したい。
 社会福祉制度の運営形態を意味する「公助」の第一義的責任を担う「国家」は、多くの人びとが暮らしの中で抱える「苦しみの構造」を解消するにあたって、何をなすべきなのか。「苦しみの構造」の中で生きることを余儀なくされている人びとに寄り添い続ける責務を担うソーシャルワーカーは、政治や行政、社会への働きかけを含めて何をなすべきなのか。第20回目を迎えたシンポジウムは、当事者(利用者)とワーカー、そして、為政者との間に見いだせる思考の「すれ違い」の実態と、支援過程に顕在し、看過できない「当事者(利用者)不在」の課題を乗り超えるにあたり、社会福祉領域の支援職として遵守すべきソーシャルワークの基本原則を実践に取り込むための方略を考え、広めていく機会としたい。


● 開催日時 2025年12月7日(日) 13:00〜18:00
● 開催場所 明治学院大学白金校舎(東京都港区)およびオンライン(Zoom)
● 募集定員 120名(対面型:80名/オンライン型:40名)
      ※定員になり次第締め切ります。
● 参加費  5,000円
● プログラム

【開催趣旨と進行方法の説明】    13:00〜13:10
所  長:北川 清一(ソーシャルワーク研究所 所長/明治学院大学 名誉教授)
総合司会:稗田 里香(東京通信大学教授、ソーシャルワーク研究所相談役)

第1部 【主 題 講 演】      13:10〜14:25
講  師:向谷地 生良(北海道医療大学 特任教授/浦河べてるの家 理事長)
「ソーシャルワーカーが当事者の声を傾聴する支援の意義と課題
  −当事者主体の実態化を阻む制度的弊害を乗り越えるために−」
※講演後、参加者と講師による質疑応答を行います。

第2部 【指 定 討 論】      14:35〜16:10
発題者1:山本 由紀(国際医療福祉大学 准教授/遠藤嗜癖問題相談室 室長)
「プライベートプラクティスにおける家族を主体とした支援の方法と課題
  −キーパーソン役に隠れてしまった子どもたち−」
発題者2:糸井 詩織(みぬま福祉会 埼葛北障害者生活支援センターたいよう
           主任相談支援専門員)
「地域相談支援における『当事者主体』のかかわりの意義と方法
  −当事者の声を聴く支援過程における課題を手がかりに−」
発題者3:中村 奈奈(北里大学病院トータルサポートセンター ソーシャルワーカー)
「若年性の認知症と向き合うソーシャルワークとは
  −『当事者主体』の身体化との関連から考える−」

第3部 【グループディスカッション】 16:20〜17:50
・前半で、五つのグループに分かれてディスカッションを行い、学びを分かち合います。
・後半で、グループディスカッションの成果報告を行います。
・第1〜3グループ(対面型)は申込み時に希望を伺います(申込み状況によりご希望に沿えない場合があります)。
  • [第1グループ]ファシリテーター:新保美香(明治学院大学教授)+ 山本由紀
  • [第2グループ]ファシリテーター:沖倉智美(大正大学教授) + 糸井詩織
  • [第3グループ]ファシリテーター:稗田里香(東京通信大学教授) + 中村奈奈
  • [第4グループ(オンライン)]ファシリテーター:丹野眞紀子(大妻女子大学教授)
  • [第5グループ(オンライン)]ファシリテーター:川向雅弘(聖隷クリストファー大学教授)

閉会の挨拶(総括)         17:50〜18:00
所長:北川清一


● お問い合わせ先

ソーシャルワーク研究所
〒272-0143 千葉県市川市相之川4−6−3−305
TEL & Fax  047-704-8007
E-mail    swkenkyu@mail.meijigakuin.ac.jp
URL      https://wwwres.meijigakuin.ac.jp/~kitagawa/

※お問い合わせはメールでお願いいたします。
なお、回答にお時間を頂戴する場合がございますのでご了承願います。

【過去のシンポジウム】
開催 メインテーマ
第19回
(2024年12月)
現代家族が抱える生活課題とソーシャルワーク専門職の役割
第18回
(2023年12月)
ソーシャルワーク専門職が取り組むアセスメントの特徴と支援ゴールの設定−「求められる支援」を届ける方法と課題−
第17回
(2022年12月)
暮らしの「転換期」における社会福祉の制度・政策とソーシャルワーカーの役割−一人ひとりの「Life」を支える支援とは−
第16回
(2021年12月)
社会福祉制度の狭間に埋もれる人びとにソーシャルワーク専門職が果たす役割−命と権利と人権の擁護に向けてなすべき支援のあり方−
第15回
(2020年12月)
ソーシャルワーク専門職として支援のウィングを広げる思考の方法−コロナ禍で顕在した生活困難を乗り越えるために−
第14回
(2019年12月)
わが国のソーシャルワーカーは実践の軸足をどこに置くべきなのか−「当事者の暮らし」を支える支援の方法を考える−
第13回
(2018年12月)
専門性に裏づけられたソーシャルワーク専門職が記す「記録」−支援の科学的証拠と説明責任を果たすために−
第12回
(2017年12月)
ソーシャルワーク実践現場における人材育成とスーパービジョンの視座
第11回
(2016年12月)
忘れてはならない地域福祉時代におけるミクロ・ソーシャルワークの視座−「問題認識」の個別化と「問題対処」の個別化−
第10回
(2015年12月)
超高齢・少子社会における「生きづらさ」の諸相とソーシャルワーク−ミクロ・アプローチのゆくえ−
第9回
(2014年11月)
支援困難事例と向き合うソーシャルワークの機能と障壁−専門性を語る視座の進化を検証する−
第8回
(2013年12月)
ソーシャルワークと権利擁護−理念と方略を考える−

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