ソーシャルワーク研究所

−シンポジウム情報−

 「第19回シンポジウム」(2024年12月8日開催)の参加者募集を2024年9月9日(月)から開始いたします。
 社会福祉制度として新たな「家庭福祉」施策の定立を図ることは喫緊の課題です。今回のシンポジウムでは、「社会問題」としての「家族問題」について、福祉マインドを持つ市民とともに乗り越える方略(実践方法)を考えます。主題講演および「高齢者領域」「子ども家庭領域」医療領域」で長らく活躍している現場実践者からの発題を受け、グループディスカッションで学びを分かち合います。
 多くの皆様の参加をお待ちしております。

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(敬称略)

第19回ソーシャルワーク研究所シンポジウム

総合テーマ
現代家族が抱える生活課題とソーシャルワーク専門職の役割


開催趣旨

 核家族時代の終焉を経て出現した新しいタイプの家族(現代家族)では、自分の親密な部分が開示でき、打ち明けられる空間であり、ありのままの自分を受け入れてくれる場であることが一つの特徴として説明されてきた。その一方で、「人」との繋がりを求め、彷徨うように新宿歌舞伎町界隈に集まる「トー横キッズ」(大阪の場合は道頓堀グリコサイン下の「グリ下キッズ」、名古屋の場合は中区栄のドン・キホーテ横の「ドン横キッズ」)と呼ばれる若者達の存在が「社会問題化」している。現代家族においても、その暮らしが崩れていくような出来事の一例ともいえよう。何かが壊れかけたことで生じた「荒み」までもを「自己責任論」に帰す流れを作り出している為政者の目には、家族(家庭)を構成する「人」の「現在」がいかに捉えられているのか。
 私達は、「イエ」「家庭」「家族」「ホーム」「ファミリー」等々、さまざまな用語を用いて暮らしの実態を表現する。それは、各々の言葉を用いなければ言い表しにくい現象が暮らしの中に横たわっているためであろう。とりわけ、「社会の歪み」によって現代家族に顕在している「理想」と「現実」の「甚だしい乖離」は、「浮遊する家族」「家族形態の流動化」「家族の液状化」「家族としてアイデンティティと理想とするモデルの喪失」とも呼び表さなければならない状況(環境=時間、関係、空間)をもたらした。「社会問題化」してきた「家族問題」は、既に危険水域にあるほど混迷を極めている。  そのような中にあって「家族問題」の当事者すべてに「自律した市民」として生きるよう求めることは、あまりに過酷な要求といえないだろうか。ここで求められる生き方が可能となるには、そのために「必要な生き方の備え(readiness)」を整えられなければならない。それが適わない生き方を余儀なくされた人も多く、その典型例が上述した「トー横キッズ」であろう。「家族(家庭)」を取り巻く社会が喧騒に包まれている現在、改めてソーシャルワーク専門職が対人支援専門職として「射程」に据えるべき「生活課題(life tasks)」とその対応方法を明確にする責任が生じている。
 家父長制度(男系家族優先)の影響力が今なお色濃く残るわが国では、女性/子どもに「我慢する」「諦める」ように強いる風潮がある。家族や「イエ」の概念には、血縁による「あたり前の」「運命的な」共同体とすることを前提に、妻がケア労働を担い、夫はお金を稼ぐとする生活意識が埋め込まれている(男性中心社会)。それは、家族内にも厳然とした「抑圧関係・力関係(夫と妻、親と子、長男とその他のきょうだい、兄姉と弟妹のような家庭内の構図)」があり、家族員間の「対等、平等」な関係の構築を難しくする価値観として暮らしの中に息づいていることを意味しよう。家族にまつわる事故や事件、出来事は「プライベートな問題」とする受けとめが強く、そのような家族を「問題家族」とラベル付けしてきた経緯もあるため、すでに異次元化している「家族問題」を「社会問題」として「可視化」する難しさの要因にもなっている。そのため、時には、私的領域の出来事に公的立場からかかわる(干渉)べきではないとする「自己責任論」に結びつき、「要支援状態」の可視化や制度化も容易でない実態が「放置」されたままになってきた。したがって、ソーシャルワーク専門職は、「見える問題性」だけでなく「見えない問題性」の重層構造にも目を注ぐ「実践感覚」を持って支援にあたることが求められよう。
 このような日本社会の生活風土(「家父長制」の名残とされるジェンダーにまつわる偏見や差別の日常性)が、専門職として介在する「家族支援」の組織化を阻んできた問題について、多様な実践領域で「家族(家庭)」との向き合いを続けているソーシャルワーク専門職が、ともに立ち向かうべき取り組み課題を整理してみたい。一つは、「問題家族」の拡散状況に鑑み、「家族問題」を「私事」ではなく「社会問題」として共有できる市民意識をいかに醸成できるか。二つは、「社会問題」としての「家族問題」の対応について、為政者が主唱する「共助(=国家責任としての生存権保障に向けた働きかけ)」ではなく「自助」「互助」の範疇で図るべきとするロジックの矛盾をいかに突き崩せるか(=ソーシャルワーク専門職として、為政者が自身に課せられている「公助」の責任性を後退させることは「憲法違反」とする視点〈ソーシャルワークの価値として説明される社会正義の身体化〉を共有できる専門職アイデンティティを日々の支援過程でいかに持ち合わせられるか)。三つは、生活保護との絡みで強調される「自己責任論」と併せて広がりつつある「家族問題の個人化論」に内在する重篤性を、「福祉マインド」を持つ市民とともに乗り越える方略(strategy=「他人事、丸投げ」状態が引き出す崩壊社会をくい止める実践)をいかに整えることができるか。
 社会福祉制度として、新たな「家庭福祉」施策の定立を図ることは喫緊の課題といえよう。第19回シンポジウムは、当事者とその背後にたたずむ家族構成員および家庭の問題と向き合うにあたり、ソーシャルワーク専門職として担う役割を模索してみたい。


● 開催日時 2024年12月8日(日) 13:00〜18:00
● 開催場所 明治学院大学白金校舎(東京都港区)およびオンライン(Zoom)
● 募集定員 120名(募集開始は2024年9月9日です。定員になり次第締め切ります。)
● 参加費  5,000円
● プログラム

【開催趣旨と進行方法の説明】     13:00〜13:05
総合司会:沖倉 智美(大正大学教授、ソーシャルワーク研究所相談役)

第1部 【主 題 講 演】        13:05〜14:20
講  師:北川 清一(ソーシャルワーク研究所所長、明治学院大学名誉教授)
「浮遊する日本の『家族』と向き合うソーシャルワークの理論的基盤
      −支援過程に『家庭福祉』の視座を取り込む実践試論−」
※講演後、参加者と講師による質疑応答を行います。

第2部 【指 定 討 論】         14:30〜16:10
発題者1:菅  朋子(横浜市社会福祉協議会 横浜市二ツ橋地域ケアプラザ
           介護予防支援事業所:管理者)
「介護保険制度下における『家族』を取り巻く課題
      −支援の対象を制度補完的資源と見なすことの矛盾−」
発題者2:山岸みゆき(横浜市中福祉保健センター こども家庭支援課:こども家庭支援担当)
「『窓口』に出向ける『家族』とアウトリーチが必要な『家族』への対応の課題
      −吏員としてのソーシャルワーク専門職が突き当たるジレンマ−」
発題者3:坂本 陽亮(清智会記念病院 患者支援室:医療ソーシャルワーカー)
「入院患者とその家族に向けた支援の現状と課題
      −転換点となった新型コロナウイルス感染症への対応から考える−」

第3部 【グループディスカッション】 16:20〜17:50
・前半で、五つのグループに分かれてディスカッションを行い、学びを分かち合います。
・後半で、グループディスカッションの成果報告を行います。
・第1〜3グループ(対面型)は申込み時に希望を伺います(申込み状況によりご希望に沿えない場合があります)。
  • [第1グループ]ファシリテーター:川向雅弘(聖隷クリストファー大学教授) + 菅朋子
  • [第2グループ]ファシリテーター:新保美香(明治学院大学教授) + 山岸みゆき
  • [第3グループ]ファシリテーター:沖倉智美 + 坂本陽亮
  • [第4グループ(オンライン)]ファシリテーター:丹野眞紀子(大妻女子大学教授)
  • [第5グループ(オンライン)]ファシリテーター:稗田里香 (東京通信大学教授)

閉会の挨拶(総括)          17:50〜18:00
所長:北川清一


● お問い合わせ先

ソーシャルワーク研究所
〒272-0143 千葉県市川市相之川4−6−3−305
TEL & Fax  047-704-8007
E-mail    swkenkyu@mail.meijigakuin.ac.jp
URL      https://wwwres.meijigakuin.ac.jp/~kitagawa/

※お問い合わせはメールでお願いいたします。
なお、回答にお時間を頂戴する場合がございますのでご了承願います。

【過去のシンポジウム】
開催 メインテーマ
第18回
(2023年12月)
ソーシャルワーク専門職が取り組むアセスメントの特徴と支援ゴールの設定−「求められる支援」を届ける方法と課題−
第17回
(2022年12月)
暮らしの「転換期」における社会福祉の制度・政策とソーシャルワーカーの役割−一人ひとりの「Life」を支える支援とは−
第16回
(2021年12月)
社会福祉制度の狭間に埋もれる人びとにソーシャルワーク専門職が果たす役割−命と権利と人権の擁護に向けてなすべき支援のあり方−
第15回
(2020年12月)
ソーシャルワーク専門職として支援のウィングを広げる思考の方法−コロナ禍で顕在した生活困難を乗り越えるために−
第14回
(2019年12月)
わが国のソーシャルワーカーは実践の軸足をどこに置くべきなのか−「当事者の暮らし」を支える支援の方法を考える−
第13回
(2018年12月)
専門性に裏づけられたソーシャルワーク専門職が記す「記録」−支援の科学的証拠と説明責任を果たすために−
第12回
(2017年12月)
ソーシャルワーク実践現場における人材育成とスーパービジョンの視座
第11回
(2016年12月)
忘れてはならない地域福祉時代におけるミクロ・ソーシャルワークの視座−「問題認識」の個別化と「問題対処」の個別化−
第10回
(2015年12月)
超高齢・少子社会における「生きづらさ」の諸相とソーシャルワーク−ミクロ・アプローチのゆくえ−
第9回
(2014年11月)
支援困難事例と向き合うソーシャルワークの機能と障壁−専門性を語る視座の進化を検証する−
第8回
(2013年12月)
ソーシャルワークと権利擁護−理念と方略を考える−

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