● 趣 旨 ●
冷戦が終わり、世界はようやく核戦争の恐怖から解放され、真の平和が訪れる――ベルリンの壁が壊され、米ソが和解し、ソ連が解体して民主化した十数年前、多くの人々はそのような期待を抱きました。けれども、その後の国際政治は、むしろ「新しい戦争」とも呼ばれるような紛争の時代になったとも言われます。ヨーロッパでさえ、旧ユーゴスラヴィアの解体とともに、ボスニアやコソボが激戦地となりました。アフリカのルワンダでは、内戦の過程で大規模なジェノサイドが起こりました。アジアでも、冷戦時代の緊張はまだ解けていません。それどころか、アメリカの主導する対テロ戦争によって、新たな対立がもたらされています。
このように、21世紀を迎えて、世界はますます混迷を深めているようにすら見えます。国際社会をまとめるはずの国際連合も、動揺しています。「暴力の連鎖」という言葉が、毎日のようにニュースで届けられています。いったい、私たちはどこから来てどこに行くのか。誰が、暴力を止め、平和を作ることができるのか。対テロ戦争は、世界を平和にするのか、あるいはもっと危険にしてしまうのか。古い世界が壊れながら、新しい世界の平和はなかなか見通せず、深い不安が私たちの心を被っています。
けれども、怖がってばかりはいられません。思い切って見方を変えてみましょう。混沌とした時代こそ、それまでになかった新しい変革を探求できる、チャンスの時代なのかもしれません。しかも、私たちの国、日本は、世界でも有数の政治力や経済力を持つ大国です。そして、冷戦後の時代、カンボジア和平、旧ユーゴスラヴィアや東ティモールの平和構築、世界各地の難民問題などについて、紆余曲折しながらも、国際的な貢献に努めてきました。
その日本の中で、ここ、神奈川県には、政治だけでなく、経済や教育やメディアなどの領域で活躍する、たくさんの人々の、層の厚い地域社会があります。たくさんのNPOや市民運動が、活動しています。同時に、対テロ戦争と直結する米軍基地もまた、県内で大きな面積を占め、さまざまな問題をもたらしています。今、地元に生きる私たちのような市民は、自分の国や国際社会をどう認識し、どのような政策を選択すべきなのでしょうか。この問いへの答えは、自分たちにとってだけでなく、日本にとっても世界にとっても重要な意味を持ちます。あるいは、民主主義の中で、重要な意味を持たせなければなりません。
今回の公開講座では、各方面で、平和について、日本や国際社会の行方について、勇気ある発言をされてきた講師の方々を、幸いにもお招きすることができました。神奈川県という地域に根づいた大学として、皆様とご一緒に、未来への平和構想を考えることができればと願いつつ、2005年度春の公開講座のご案内をお送りします。
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